[フィリピン]不動産の購入者保護②

2019/11/01

[フィリピン] 不動産購入者の保護②


前回は、フィリピンにおいて不動産を購入する際のガイドと、購入者の権利についてご紹介しました。

今回は、購入者の権利の保護を目的とするフィリピンの法制度について見ていきます。

不動産取引では大きな金額が動きます。多くの購入者は、今までの貯金や今後の収入を支払に充てていきます。よって、購入者は、支払った金額に相当する価値のあるもの、購入する物件に約束されたものを受け取る権利があります。このためには、マーケティングや販売がきちんと規制されていることが重要になってきます。

フィリピンには、購入者保護を目的として、以下のような法律があります。

不動産購入者の保護を目的として、
・大統領令No.957、通称「分譲地およびコンドミニアム購入者保護令」

分割払いによる不動産購入者の保護を目的として、
・共和国法NO.6552「分割払いによる不動産購入者保護法」


■消費者保護に関する規定

プロ意識の高い販売業者がいる一方で、残念ながら、速く売ろう、高く売ろうとするがために、クライアントに対してできもしない約束をする(故意に不正な説明をしたり、不完全・不正確な情報を与えたりしてクライアントをだます)販売業者もいます。

大統領令No.957は、このような購入者の問題に対応し、購入者の利益を保護するためにあります。1976年施行以降、不動産市場の変化に合わせて何度か改定されてきましたが、その主な目的は、売主(デベロッパー、仲介業者、販売業者、家主)の不実表示および不正から不動産投資家を守ることです。

以下は購入する物件の所有権が引き渡される際に、オーナーまたはデベロッパー側で設定されている抵当権があった場合にはそれが取り除かれなければならない旨、所有権の引渡しが済んでいない物件の不動産税は購入者は負担しなくてよい旨などが規定されています。

第25条 所有権の発行

オーナーまたはデベロッパーは、分譲地またはユニットの所有権を、購入金額の全額支払いとともに、購入者に移転するものとする。登記局での売買証書の登記に必要なもの以外の費用は、当該所有権の発行に際して回収されない。購入者に権原を発行する際に分譲地またはユニットに抵当権が設定されている場合、オーナーまたはデベロッパーは、当該抵当権またはその該当する部分を、発行から6か月以内に取り戻し、購入金額の支払が終わっている当該分譲地またはユニットにかかる所有権が確保され、購入者に引き渡されるものとする。


第26条 不動産税

分譲地またはユニットにかかる不動産税は、所有権が購入者に引き渡されない間は、オーナーまたはデベロッパーが支払うものとし、購入者から徴収されることはない。ただし、購入者が分譲地またはユニットを実際の所有権を握り占有している場合には、買主は、このように実際の所有権を握り占有した翌年から、オーナーまたはデベロッパーに対して不動産税を支払い義務を負う。

■不動産の引渡しおよび支払に関する規定

さらに、販売業者およびデベロッパーが広告した、または合意した時期に物件を引渡しできない際の規定もあります。購入者は、支払い済みの金額が没収されないように保護されているだけでなく、支払を停止したり、支払済みの金額の返還を受ける権利があります。

第23条 支払金額の不没収

購入者が購入契約を締結した分譲地またはユニットのために、分譲地またはコンドミニアムプロジェクトに支払ったいかなる分割払い金も、購入者がきちんとオーナーまたはデベロッパーに通知したうえで、オーナーまたはデベロッパーがプロジェクトを承認済みの計画通りに、開発の期限内に開発しないことを理由として、それ以降の支払を停止するときは、オーナーまたはデベロッパーにより没収されることはない。このような購入者は、支払い済み総額の返金を受けることを選択できる。これには割賦利息は含まれるが、支払遅延利息は除く。


上記のように、プロジェクトが開発されないこと以外の理由で購入者が分割支払い金を支払わないときは、共和国法No.6552「分割払いによる不動産購入者保護法」が適用されると定めています。

第24条 分割払い金の不払い

オーナーまたはデベロッパーがプロジェクトを開発しない以外の理由で、買主が分割払い金を支払わない場合の買主の権利は、共和国法No.6552に支配される。


また、契約時に法令で定める権利を放棄するような条項が含まれていたとしても、無効になるとしています。

第33条 権利放棄の無効

販売契約の条件、規定、条項などにより本令または本令に基づき発行された規則または規制の規定に従うことを放棄したとしても、このような放棄は無効となる。


■広告およびマーケティングに関する規定

大統領令No.957は不動産市場の変貌に合わせて何度も改定されてきました。改定の中には、不動産のマーケティングおよび販売について定める実施規則および規制(implementing rules and regulations (IRR))の見直しも含まれています。

このようなIRRにより、広告は保証(ワランティー)に近いものとなっています。販売業者およびデベロッパーは、住宅・土地利用規制委員会(HLURB)の承認を受けたあと、一般に公開する一切の表現・描写を責任をもって実現しなくてはいけません。

第19条 広告

オーナーまたはデベロッパーが、新聞、ラジオ、テレビ、パンフレット、回覧、その他の方法で、分譲地、コンドミニアム、その運営や活動について行う広告は、事実を反映していなければならず、誤解を招いたり、一般大衆を欺くような方法で提供されてはならない。


オーナーまたはデベロッパーは、オーナー、デベロッパー、または代理人が配布した、パンフレット、広告、その他販売用の宣伝に描写された、または約束された設備、改良、インフラ、その他の開発を行う責任があり、オーナーまたはデベロッパーに対して連帯して強制執行可能な販売保証を構成します。

これらの保証を順守しない場合、同令に規定に従って罰則が科されます。

大統領令No.957第19条は、不動産の購入者が購入する際にしっかりと情報を得たうえで意思決定できるようにしています。よって、不動産の広告に使用されている写真が実際の写真か完成イメージかといった一見明白なことまで、免責事項を記載することを求めています。

不動産を購入するにあたって、物件のロケーションと価格は、購入者にとって重要な要素であり、第19条が定める情報の一例です。よって、プロジェクトまたは物件に関するランドマークに言及する際には、距離が正確に記載されていなければなりません。ただし、支払方法または資金調達については全容を明らかにしない限り、言及しなくてもよいことになっています。

購入する際には、小さい文字で書かれた規定も含め、署名する書類のすべての条件をよく読み、理解したうえで署名することが必要です。

(参照:Lamudi