[フィリピン] フィリピン不動産市場動向2023年10月

2023/12/14


総合不動産サービス会社クッシュマン&ウェイクフィールドが、2023年10月のフィリピン不動産市場のレポートを発行していますので見ていきましょう。世界的な情勢に不確定性は残るものの、オフィス需要もレジデンシャル需要も戻りつつあることを示しています。



■不動産市場全般


BMIアジア・カントリーリスク(BMI Asia Country Risk )のアナリストらは、借入コストの上昇と先行き不透明な貿易見通しにより、フィリピン政府が掲げている来年の経済成長目標6.5~8%は達成が難しいだろうと述べています。特に、アメリカや中国本土など、フィリピンの貿易相手国で景気低迷が見込まれていることから、2024年のフィリピンの対外貿易が冷え込むことが予想されています。インフレも高止まりしており、フィリピン中央銀行(Bangko Sentral ng Pilipinas(BSP))は2024年前半まで緊縮的な金融政策を続ける見通しです。一方で、政府は、2023年、インフレ率が平均3.6%と政府の目標である2~4%の範囲内におさまる前に、輸出が1%、輸入は2%成長を予想しています。しかし、エルニーニョ現象と世界の地政学的な対立の影響で上向きの変動リスクは依然として残りそうです。

・クッシュマン&ウェイクフィールドは、世界経済がコロナ禍から浮上するにつれて、投資市場も成長すると見込んでいます。しかし、ハイパーインフレーション環境と加速する地政学的な緊張の脅威に晒され、短期~中期的には外国投資の実現を妨げることになりそうだと述べています。



■オフィス


・フィリピンのアウトソーシング企業大手 Concentrix + Webhelpは、フィリピン国内52番目となる拠点を開設しました。この拠点は、セブ市のセブ・エクスチェンジ・タワー(Cebu Exchange Tower)にあり、セブでは9拠点目、4,500名の従業員を抱えるフィリピン最大の拠点となります。Concentrix + Webhelpは、フィリピン国内で約10万人の正社員を抱え、セブで勤務する正社員は13,000人ほどです。人工知能(AI)や生成AIといった技術を採用する企業が増える中、Concentrixは、ホリデーシーズンの業務量増に対応するため、増員を続けています。セブの8拠点目は、セブ・モンタージュビルに昨年オープンしたばかりです。

・景気が安定してくるにつれ、オフィス市場の需要も徐々に戻ってきています。ハイブリッド型の働き方を推進できる、デジタル技術を十分に備えた大企業を中心に、オフィスに戻る動きは予想よりもゆっくりとしたものですが、IT-BPM業界は今後も堅調な成長を続けていくと見られています。クッシュマン&ウェイクフィールドは、フィリピンがアウトソーシング先としての世界における優位性を維持するためには、国のBPO業界のアップグレードや改善に重点を置くことが重要になるだろうと述べています。



■レジデンシャル


2023年第2四半期、フィリピンのレジデンシャル不動産価格インデックス(RREPI)は、前年比14.1%、前期比は5.3%上昇しました。第1四半期は、前年比10.2%、前期比1.4%でした。2022年の第2四半期の前年比2.6%も大きく上回る結果となりました。今年の第2四半期の成長をけん引したのは、デュプレックス(1Q22.1%⇒24.6%)、戸建て(1Q17%⇒18.3%)、タウンハウス(1Q1.8%⇒14.7%)でした。コンドミニアムも、第1四半期の1.2%から5.0%に改善しました。メトロマニラのレジデンシャル価格は15.4%上昇し、メトロマニラ以外の地域の成長率13.8%を上回りました。レジデンシャル不動産向け融資(RREL)では、2023年第2四半期の融資件数は1%減少しました。メトロマニラのRRELが前年同期比で11.8%減少したのに対し、メトロマニラ以外の地域では5.3%の減少にとどまりました。

・クッシュマン&ウェイクフィールドは、価格に上向きのリスクが残る中、BSPがさらなる金融政策を調整してくる可能性があることから、住宅ローンの利率変動は今後も続きそうだと述べています。しかし、景気の回復に伴い、住宅需要は変わらない予想で、クッシュマン&ウェイクフィールドは、レジデンシャルセグメントにとって前向きの見通しだと述べています。




■ホスピタリティ


マニラ国際空港管理局(MIAA)は、ニノイアキノ国際空港(NAIA)の2023年の旅客数が、国内海外合わせて4,500万人を超える見通しであることを明らかにしました。今年1月~9月期で、NAIAを利用した旅客数は3,376万人に上り、すでに2022年通年の記録3,094万人を超えています。2019年のコロナ前のレベルも上回る見込みです。また、MIAAによると、航空機の発着回数も昨年同時期から31%多い、206,050回となっています。NAIAの定時運行率(OTP)にも大幅に改善が見られ、6月の60%から9月には80%となっています。

・ボーナスと重なり消費者の可処分所得が増えることで、時期的に旅客数やホテル予約の増加が見られます。クッシュマン&ウェイクフィールドによると、出張が増えてきていることで、メトロマニラなど主要ビジネスハブにおいては、ホテル客室料の上昇が見込まれるということです。




■工業・物流


DHLサプライチェーンは最近、フィリピンでの事業拡大計画を発表しました。新たに国内に2拠点設けるに当たって、推定48億ペソ(約122億円)の投資を予定しています。ひとつはラグーナ州サンタロサで、約5万平米の広さを誇るビルド・トゥ・スーツ型の倉庫で、同社では国内最大級の投資となります。もうひとつは、2025年にマニラ首都圏内に完成予定で、約2万平米となっています。DHLによる倉庫および運輸業への投資で、2024年には1,000人分の雇用を生み出すと予想されています。現在、DHLが保有する物流施設は、国内20か所、合計28万平米に上ります。DHLがフィリピンについて楽観的な見方をする背景には、倉庫・運輸業をささえる力強いリテール産業があります。一方で、DHLは、東南アジアでのプレゼンスを高めるべく、今後5年間で現在の160万平米から200万平米まで25%倉庫スペースを拡大する計画です。

・成熟した工業団地やメトロマニラの隣という戦略的な立地もあって、カヴィテ、ラグーナ、バタンガスといった地域は、製造会社、電機メーカーにとっての拠点となりつつあります。クッシュマン&ウェイクフィールドは、外的要因により成長は減速しているものの、国内でのデジタル経済の新興に伴い、物流企業はこれらの地域への関心を高めるだろうと述べています。



■リテール


SMプライム・ホールディングスは、中東における緊張の高まりの中でも、株価が安定しているとして、前向きな市場センチメントを維持しています。SMプライムは、ラグーナ州サン・ペドロ市に国内84番目となるモールをオープンしました。賃貸可能面積の約90%が成約済みだということです。国内市場の状況が改善することや、ホリデーシーズンには業績が好調になる見込みで、同社の事業拡大の上で重要なマイルストーンになりそうです。SMプライムはまた、モールの客足はパンデミック前には戻ってきているとして、旅行市場の回復に伴い、SMプライムの見通しも明るいものにしています。

・実店舗の目的というのが変わりつつある中、小売スペースもまた新しい世代による変わりゆく顧客層に対応しながら変貌を遂げるとみられています。クッシュマン&ウェイクフィールドはまた、複合用途開発が新興するビジネス街で目立つことから、こういった開発物件が小売スペースの拡大をけん引しそうだとも述べています。




(出所:Cushman and Wakefield)