[トレンド] ロシア・ウクライナ紛争がアジア経済に与える影響は

2022/03/16


オランダの総合金融機関INGグループが、ロシア・ウクライナ紛争がアジア経済に与える影響を分析していますのでご紹介していきます。



INGグループは、比較的いいニュースとして、ロシア・ウクライナ紛争はそんなに深刻な経済的な影響はもたらさないだろうと述べています。



ロシア・ウクライナ紛争がアジアにどのような影響を与えうるかということについて、INGグループは3つの観点で分析しています。詳しくは、以下で見ていきますが、直接的な取引経路が小さいため、アジア各国が今回の紛争により受ける影響はさほど深刻でないと結論付けています。



①直接的な貿易の影響:

紛争とそれに伴ってロシアに科された制裁は、両国への輸出市場にダメージを与えるだけでなく、輸入チャネルにも混乱を招く可能性があります。これにより、供給のボトルネックを発生させ、生産不足に陥る可能性があります。


②エネルギー依存度:

原油やガスの輸入割合が多ければ多いほど、それがロシアやウクライナからでなくとも、エネルギーの輸入にかかるコストが増大する可能性が大きくなります。反対のことがエネルギー純輸出国についても言えます。値上がりすることで、プラスの貿易条件のショックとなりえます。


③消費者物価指数(CPI)バスケットにおけるエネルギー(および食料)のウエイト:

エネルギーの貿易ポジションにかかわらず、エネルギー(および食料)の価格上昇がインフレを加速させるにつれて、CPIバスケットに占めるこれらの品目のウエイトが大きくなり、消費者の購買力が損なわれることになります。エネルギーの生産が肥料の生産にも関わってくるので、エネルギーと食料価格は関連性がありますが、ウクライナおよびロシアは、世界でも有数の穀物の生産国ですので、食料価格への直接的な影響もあります。



INGグループは、株価の低迷を通じた影響、それによる投資と将来の生産性減少の影響があるとして、金融面の影響も忘れてはならないが、これを比較するのは単純ではないと述べています。



では、上記3つの観点からみたアジア各国の状況を見ていきましょう。



直接的な貿易への影響


INGグループは、ロシア・ウクライナとアジア各国との間の貿易は紛争によって混乱をきたすだろうと述べています。ロシア・ウクライナとアジア各国との間の貿易額では、韓国が最大で、続いてベトナム、日本となっています。韓国については、輸入が輸出を上回っており、ほとんどがエネルギーです。ベトナムと日本は、わずかに二国間貿易黒字を保っています。全ての場合において、貿易の規模は小さく、ベトナムと韓国はそれぞれGDPの2%以下となっています。



シンガポールと台湾は、ロシアとウクライナとの間では、GDPの0.5%程度の二国間貿易赤字となっています。貿易全体では、名目GDPの1%に満たないレベルです。中国を含むその他の国々についても、貿易額全体は名目GDPの1%未満、二国間の貿易ポジションも非常に小さいものとなっています。



輸出チャネルだけについて見ると韓国と日本が上位を占めます。日本については、ロシア・ウクライナ向けの総輸出額は2021年GDPの1%を少し超えたぐらいです。



▼アジア各国とロシア・ウクライナとの貿易規模(GDPの割合)(出所:ING)
※オレンジ色:貿易収支、灰色:貿易合計



エネルギーへの依存度


アジア各国はエネルギーの輸入に大きく依存しており、エネルギーの純輸出国になろうとしている国はわずかです。エネルギー輸出国については、エネルギー価格の高騰は棚ぼたの収益となり、ロシア・ウクライナからの調達ルートがなくなったり、それらの調達ルートを避けたことでエネルギー輸入国が他の供給元を探すにあたって、需要・売上の増加を経験する可能性があります。



次のグラフは、石油、天然ガス、関連石油・ガス製品の貿易収支を示したものです。オーストラリアは貿易黒字が名目GDPの約4%となっており、インドネシアやマレーシアが続きます。その他の国は、エネルギー純輸入国となっています。依存度順では、韓国、台湾、タイが三大輸入依存国となっています。



▼アジア各国のエネルギー貿易収支(出所:ING)



価格の影響


次に紛争がどの程度までインフレを引き起こし、家庭の購買力を損なうかを見ていきます。CPIバスケットの中に食料とエネルギーが占める割合は、発展途上アジアを中心にかなり大きく、中央銀行のより強気な政策対応を引き出す可能性もあるため、このチャネルはロシア・ウクライナ紛争がアジアに影響を与える最も強力なチャネルとなるでしょう。



世界のインフレ状況がすでに不安定な中、価格レベルに追加のショックが加わる形になりますが、アジアはハイテク製品のサプライチェーンにおいてより良いポジションに付けていることと、輸送コストの面でより有利であることから、他の地域の国々と比べると比較的よい立ち位置にいると見られています。



しかし、世界的に高まる小麦の価格は、コメなどの穀物代替品の価格を押し上げる方向に働く可能性があります。一方で、とうもろこしの価格上昇は、大豆など飼育豚の代替飼料の価格を押し上げる可能性があり、今度はそれが域内の豚の価格を引き上げる結果となりそうです。長期的には、エネルギー価格があがると、それを原料とする肥料の価格も上がるため、肥料の使用量を減らすことで、収穫量が減り、価格が上がるということが起こりえます。この影響は、かなり遠くにまで波及し、さらに長期間続くことになりそうです。



このチャネルへの暴露を計る方法として、INGグループは、アジア各国のCPIバスケットにおける食料とエネルギーの割合を比較しています。影響は、タイ、フィリピン、インド、ベトナムといった、発展途上の国々に集中しているように見えます。これらの国々のCPIバスケットにおける食料とエネルギーの割合は40%以上です。一方で、シンガポール、中国、韓国、オーストラリアでは、CPIバスケットにおける食料およびエネルギーの割合は小さいので、家庭の購買力への影響も限定的だとみられています。



▼CPIバスケットにおける食料とエネルギーの割合(単位:%)(出所:ING)



INGグループは、紛争の行方が不透明な中で、アジア各国への影響を正確に数値で示すのは難しいとしていますが、影響を受ける可能性の度合をランキング化していますので、こちらも見ていきましょう。これを見ると、最も今回の紛争の影響を受けそうなのはベトナム、続いてタイ、日本、韓国となっています。一方で、オーストラリア、インドネシア、フィリピン、シンガポールは比較的影響を受けにくいだろうと予想されています。



▼影響度ランキング(影響を受けやすい⇒影響を受けにくい順)(出所:ING)



(出所:ING

(画像:Photo by Swapnil Bapat on Unsplash