[フィリピン] 不動産市場動向(2022年4月)

2022/05/18


不動産コンサルタント会社クッシュマン&ウェイクフィールドが2022年4月のレポートを発表していますので、ご紹介していきます。

パンデミックが始まってから急速に広まった在宅勤務、在宅と通勤を組み合わせた働き方により、住宅需要がメトロマニラの外の低密度かつ住宅価格が比較的安いエリアにシフトしていることを指摘しています。また消費者の好みも、インターネットスピードやオープンスペースといったパンデミックとそれに伴って発達した新しい働き方に対応した特徴に重点が置かれるようになってきているようです。




■不動産市場全般

・クアラルンプールを拠点とするオンラインショッピングアグリゲーター「iPrice Group」の調べで、域内の6大市場を比較して、マニラは東南アジアで生活費が高い国ランキングで第3位となりました。シンガポールの生活費が、東南アジアの他の都市より132%も高いのに対して、マニラの生活費は、単身者で月あたり50,800ペソ(約12.5万円)と、バンコクの月あたり51,500ペソよりわずかに安い程度でした。マニラに住むのは、クアラルンプールに住むより30%、ベトナムに住むより28%、ジャカルタに住むより24%高いという結果になりました。このデータではさらに、賃料の面では、マニラはシンガポールに次いで2番目で、市内の1ベッドルームアパートの賃料では、クアラルンプールよりも56%、ジャカルタより47%、ホーチミンより31%、バンコクより9%高い結果となりました。マニラの平均生活費は、市内に住む人の平均給料18,900ペソ/月より168%高いことも分かりました。

・主要ビジネス地区の近くに住むことの主なセールスポイントは、ひどい渋滞を抜けずとも職場に行き来できるという利便性です。こういったエリアに物件を所有するというのは、平均的な社会人にとっては必ずしもできることではないので、ひとつのユニットを一人以上のテナントでシェアするタイプの二次賃貸市場が人気でした。パンデミックに端を発した在宅勤務の働き方、アジャイルな働き方を選べるようになったことで、メトロマニラよりも値段が手頃な、メトロマニラの外のエリアへ住宅需要がシフトすることが見込まれるとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■オフィス

・リスク管理、保険仲介、アドバイザリー等を行うウィリス・タワーズ・ワトソン(Willis Towers Watson)の調査によると、リモートワークを行う正社員の数がますます増えています。2017年には全体の3%ほどだったのが、2023年には約34%になると見られています。この調査は10月~11月に行われ、アジア太平洋地域の企業434社を対象としています。うち47社は、フィリピン企業です。フィリピン国内で調査対象となった企業の95%は、従業員の安全のために、オルタナティブな働き方を採用しています。約35%はフレックスタイムを導入しており、約66%はフレキシビリティを与えることが従業員の留保につながると考えています。調査ではさらに、オルタナティブな働き方を完全に採用できていない企業もあることがわかりました。回答者の半分は、フレキシブルな働き方を管理するような方針がないと答えた一方で、3分の2は、パンデミックが始まった時に、ポリシーを整えたのみ、と答えています。

・多くの企業が現在、行動制限への一時的なソリューションとして、在宅勤務を実施している一方で、未来の職場はリモートとオフィス勤務の混合と見られており、このトレンドが今後もしばらく続くと見られています。不動産コストの削減、生産性の向上、従業員の満足度という点で、リモートワークを認めている企業は、より柔軟性があるとことをアピールしゲインを最大化できると見られています。



■レジデンシャル

・フィリピンに新しく登場したオンライン不動産プラットフォーム「Ohmyhome」は、ますます在宅勤務のトレンドが高まることで、住宅購入における消費者の新しい好みに焦点を当てています。購入者が現在こだわりを持っているのは、インターネット接続スピードに加えて、コンドミニアムのバルコニーや一軒家の庭といったオープンスペースです。Ohmyhomeは、パンデミック前は、レジデンシャル需要を引っ張る海外で働くフィリピン人にコンドミニアムユニットを求める傾向があったのと対照的に、最近の問い合わせはもっぱら一軒家だと述べています。ロケーション的には、問い合わせの半数以上がメトロマニラ以外のカヴィテ、バタンガス、パンパンガ、スービック、サンフアンだということです。これらのエリアの決め手は、接続性を高めるインフラ開発です。国内バイヤーの60%の関心を集めるのは、1,000万ペソ未満の物件で、40%程度は100~500万ペソの物件を探しています。さらに、問い合わせの3分の1は、支払期間を最大60か月まで延ばした物件です。

・パンデミックにより、住宅需要が近くの都市化エリアなど低密度なエリアへ移っていますが、メトロマニラ市場でも、オープンスペースが取り入れられたレジデンシャルコンドミニアムに重きを置くバイヤーが増えているとして、クッシュマン&ウェイクフィールドはメトロマニラにも一定数のバイヤーが残っていることを示唆しています。



■ホスピタリティ

・パンデミックにもかかわらず、ダブルドラゴン・プロパティーズ(DoubleDragon Properties Corp.)はホテル101ブランドを拡大し、今年、ホテル101-セブ、ホテル101リゾート-ボラカイ、ホテル101-リビスを立ち上げます。ホテル101は、コンドテルユニットを転売して、ホテル運営の収入も得るという、収益と収入を2度上げるというユニークな手法を取っています。パンデミックの期間も回復力を保ち、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)従業員に対して宿泊先を提供することで、稼働率80.11%を記録しました。ダブルドラゴンは、これらの新しい物件が完成・オープンの際には、観光業の完全リバウンドを期待しています。今年立ち上げる物件は、合計2,251室が同社のホテル在庫に加わる予定です。



■工業・物流

・新しく署名された税制改革(CREATE)法で拒否された条項のひとつが、投資振興機構に登録された既存の企業が、同じ事業活動のもとでインセンティブの延長を申請することを認めるものでした。これにより、フィリピン経済特区庁(PEZA)は、既存外国企業のフィリピン離れが進むのではないかと懸念を示しました。CREATE法では、新しい事業活動にのみ新しいインセンティブを与えるので、既存の企業は今後は、今の免税期間が終わったら引き下げ後の税率25%の法人税に移行するまで、10年間のサンセット条項に従うことになります。CREATE法により、既存の経済特区に入居する企業は、占有スペースを保持して新規プロジェクトに投資するか、よりよいスキームが得られるような別の市場に移転するかを決断しなければならないでしょう。

・CREATE法のもと、新しいインセンティブ合理化スキームが可決されましたが、工業部門は、物流やデータセンターといった先行きの明るい分野でのビジネスのしやすさ改善の恩恵を受け、CREATE法のサンセット条項の抑止効果の可能性に立ち向かうことができるだろうとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。



■リテール

・オンラインデリバリーサービスのフードパンダ(Foodpanda)は、隔離期間の勝ち組として出現し、競合が市場の3分の2を占めたパンデミック前と比べて、シェアを70%近くまで拡大しました。当時のメジャープレイヤーがロックダウン中のオーダー量の多さに対応できず、フードパンダを含む他の市場の競争相手にスピルオーバー効果を生み、そこでうまくいったことで新しい顧客留保につながりました。フードパンダによると、ユーザー数が2020年2月から8倍に、パートナーレストランも5倍に増えました。フードパンダはさらに、パンデミック中のフードデリバリーサービスに大幅な増加はあったものの、フードサービス全体は12%を超えない程度で、オンラインフードデリバリーサービスに成長の余地があることを示しています。

・フィリピンのリテールシーンは、テナントの占有スペースという点において、飲食店の占める割合がかなり大きいのが特徴です。パンデミック後のシナリオとしては、オンラインデリバリーサービスと飲食店との協力関係が拡大すると見られており、経済が完全復活を遂げるにあたって、飲食店は急速に立ち直る業界のひとつだろうとクッシュマン&ウェイクフィールドは述べています。


(出所:Cushman & Wakefield, Business World Online

(画像:Photo by David Milmont on Unsplash )