[マレーシア] クアラルンプール/スランゴールのオフィス市場:需給のミスマッチ進む

2021/10/12


クアラルンプール市内のオフィススペースの、賃料および稼働率レベルは、4棟の新築ビル(賃貸可能面積は合計で約157,935平米)の完成により、さらなる圧力にさらされると見られています。



ナイトフランク・マレーシアのコーポレートサービス担当エグゼクティブディレクター、テー・ヤン・キアン氏は、需要の低迷に加えて、需要と供給のミスマッチが進む中でのビルの完成となったと話しています。


しかし、テー氏は、クアラルンプール周辺地域の稼働率は、年の残りの期間も回復力を保つものとみています。その背景には、優位性のある賃料の、地方分散型の高品質なオフィススペースに対する需要が持続的に存在するからです。特に、アクセスが容易な場所や交通の便の良いところは人気です。



クランバレーのオフィスセクターは、引き続きテナント主導型です。競争が高まる中、家主はコスト最適化、資産強化の取り組み、そして賃貸戦略に重点的に取り組んでいます。というのも、テナントの引き留めがカギとなるからです。健康・安全に関する特徴が、オフィスビルの中心となっており、ますます多くのビルが、「非接触型」のアクセスやその他ウェルネスを推進するためにテクノロジーを活用していくことが予想されています。



ナイトフランクは、明確な事業継続計画を持ったテナント候補や投資家からの職場関連コンサルティングの問い合わせが増えてきていると述べています。ニューノーマルでの職場戦略を見据えているからです。ナイトフランクは、このトレンドは今後も継続するだろうと見ています。



問い合わせ件数は多かったものの、テナント各社がこの厳しいビジネス環境の中、様子見のアプローチを取っているため、取引の成立は限定的でした。賃貸活動は、厳しい封じ込め措置の影響を受けました。積極的に問い合わせがあったのは、IT、Eコマース、医療/成約、シェアードサービスといったセクターからということです。



パンデミックが落ち着いても、多くの企業がハイブリッド型の働き方を職場戦略として採用すると見られています。



これにより、テクノロジーへの依存が進むとナイトフランクは見ています。質への逃避から、企業の中には、よりスペックが高く、アメニティの豊富なオフィススペースへとアップグレードするものもあるでしょう。対照的に、デスクシェアリングやフレキシブルなワーキングスタイルといった新しい取り組みを採用している企業は、オフィス面積を減らす可能性があります。このことが、「シャドースペース」と呼ばれる、現在は賃貸されているものの賃貸に出される面積を増やすと見られています。



フレキシブルワークスペース事業者は、魅力的な法人フレックスパッケージや短期(時間制)テナントなど、柔軟性に焦点を当てた商品を提供することで、ハイブリッド型の働き方から恩恵を受けることになりそうです。



テー氏は、2021年6月28日に発表された政府の1億5,000万リンギットの支援策「Pemulih(ペムリ)」が景気刺激につながるだろうと話しています。



「支援策に、Covid-19ワクチン接種の加速も加わって、国の景気回復を促進すると予想されています。オフィス賃貸需要や問い合わせも、現在の厳しい封じ込め措置が解除されれば戻ってくると見ています。」



クアラルンプール市内、クアラルンプール周辺地域、そしてスランゴールのオフィススペースの平均賃料は、2021年第2四半期、5月12日に開始、6月1日には完全ロックダウンへと発展したCovid-19封じ込めのための活動制限令(MCO3.0)により、下落しました。



オフィス市場は、テナント有利な状態が続いているようです。クアラルンプール市内では、オフィス稼働率には下向きの圧力がかかる一方で、周辺地域では質の高い地方分散型のスペースに持続的な需要があることから回復力を見せました。



ナイトフランク調べでは、クアラルンプール市内の新しいCBDのプライムA+オフィスの平均賃料は、2021年第2四半期、前期比0.2%下がって平米当たり約113リンギット、市内のグレードAオフィスも、新しいCBDでは前期比で1.9%減の平米当たり65リンギット、古くからのCBDでは前期比1%減の平米当たり56リンギットとなりました。



クアラルンプール周辺地域では、バンサー南とクリンチを除くすべてのグレードAオフィスで平均賃料が前期比で減少しました。バンサー南とクリンチでは、横這いの平米当たり60リンギットでした。


▼エリアごとの賃料および稼働率(ナイトフランクをもとにPropertyAccess作成)


一方で、クアラルンプール市内の全体の平均稼働率は、0.4%減の67.8%となりました。新しいCBDおよび古くからのCBD両方で稼働率が下がり、それぞれ67.3% (前期比-0.6%) と
70.9% (前期比-0.1%) となりました。



クアラルンプール周辺地域の全体の稼働率は横這いで85.9%でした。ダマンサラ・ハイツは0.8%下がって74.5%、TTDI/モントキアラ/ドゥタマスは2.1%下がって78.3%となりました。KLセントラル、バンサー南/クリンチの稼働率は変わらず、それぞれ93%と91%でした。



ミッドバレー・シティ/KLエコシティ、パンタイ/バンサーでは、稼働率が増加し、それぞれ78.5%(前期比+0.4%)、86.3%(+1.1%)でした。パンタイ/バンサーの稼働率増は、メナラTMに移転したテナントがあったことによるものです。



スランゴール全体の平均稼働率は、2021年第1四半期の76%と比較するとややさがって75.5%となりました。ペタリンジャヤは75.2%(前期比-0.7%)、スバンジャヤは78.5%(-1.8%)、サイバージャヤは73.5%(-0.5%)でした。一方で、シャーアラムの稼働率は2.3%あがって80.2%となりました。



2021年第2四半期、クアラルンプールの純成約面積はマイナス約9,657平米でした。新しいCBDにある特定のオフィスビルからのテナントの移転があったことによるものです。スランゴールでも同様に成約面積はマイナス7,614平米でした。こちらも、プチョンおよびペタリンジャヤのオフィスビルからのテナントの退去があったことが理由となっています。



一方で、2021年第2四半期には、いくつか工事が完了した物件がありました。プルマタ・サプラ(Permata Sapura)(賃貸可能面積:62,245平米)、メナラ・グレート・イースタン2(Menara Great Eastern 2)(賃貸可能面積:19,695平米)、メナラIQ(Menara IQ)(賃貸可能面積:51,560平米)、TSロータワー(TS Law Tower)(賃貸可能面積:27,313平米)でした。



クアラルンプール市内の現在のオフィススペース供給は推定541万平米、クアラルンプール周辺地域は273万平米、スランゴールは222万平米となっており、全部で約1,036万平米となっています。



さらに、約106万平米が建設中です。内訳では、クアラルンプール市内がもっとも多く52.9万平米、続いてクアラルンプール周辺地域が29.3万平米、スランゴールが23.9万平米となっています。ナイトフランク・マレーシアは、今後2年半程度で、オフィススペースが10.2%増加すると予測しています。



(出所:Knight Frank)

(画像:Image by StartupStockPhotos from Pixabay)